コミュニケーションについての雑感-19 
      アニメ「ガルパン」大洗の活性化 


ガルパン聖地として全国に知れ渡った大洗。
アニメ聖地は日本各地にありますが、地元と訪れるファンの方々との良好な関係が築けたということでも有名です。
そうした背景にあったことが、この連載でのコミュニケーションについて考える上でも大いに参考になると思います。

ポイントとして特にあげられるのは次の点です。
①これまでアニメや若者文化とは全く無縁だった地元の中高年齢の方々が積極的に関わった

②訪れるファンが自分の本当の故郷であるかのような感覚を持ち、一緒に気持ちの良い関係を築いていった。



残念ながら聖地の中には、訪れる大勢のファンによる迷惑行為などが相次いだため「来ないでください」と公式HPなどで宣言されている地域もあります。
また成功していても、中心になって動いているのは、例えば地元商工会でもアニメ世代の青年部ばかりであることが多いとか。
(あくまでも伝聞による知識ですが。)


今日は①のことを中心に書きます。

ガルパンの聖地、大洗は私の家から車で30分程度のところにあります。
ただ、私はガルパンファンではありますが、体調のこともあって、大勢のファンが詰まるイベントには一度も行った事はありません。
なので今回の大洗での内容は、あんこう祭り等々のイベントにも何度も行っている知人の話などによるものです。

同じように参加されている方々には違った印象を持たれている場合もあると思いますが、その点はご了解ください。

そもそもガルパンを知ったきっかけは、ガルパンの放送がはじまる一ヶ月ほど前にその知人がたまたま あのとんかつ屋さん 
クック・ファン (Cook Fan) に行ったら宣伝のチラシがあったということで・・・
「何だか大洗を舞台にしたアニメがはじまるみたいです。高校生の女の子たちが戦車に乗る・・・・」
「何それ?」
とりあえず第1話を視聴してみようということになったわけです。
監督がこれもたまたま私が深夜アニメに入り込んだきっかけになったアニメ「イカ娘」の水島努監督だったこともあって。

2012年10月 放送がはじまりました。(2011年3月東日本大震災の翌年です)
非常に丁寧につくられているな、というのが最初の印象でした。
生徒会長が常食にしている干し芋が丸干しタイプというのも面白かった覚えがあります。(美味しいけどけっこう高いんです)
それで2話以降も見続けました。

このアニメ、放送開始の時はあまり注目されていなかったんですよね。
それがジワジワと人気がでてきて・・・・

*このジワジワ人気ということも、別日にきちんと触れたいと思っています。ウマ娘の話なども加えて。


ジワジワと人気がでてくるにつれて所謂「聖地巡り」ということで大洗がだんだんと話題になってきました。
ネット上ではアニメで使われたシーンと実際の大洗の画像を比較したサイトなどがたくさんでてきました。
とんかつ屋さんも、海辺というように変更されていましたが、ご主人とともにアニメに登場。
やがてアニメにでてきたような戦車型のとんかつがメニューに加わり、幅広い地域からますます人が集まるようになりました。

アニメ内に戦車をもじったスイーツなども登場したのですが、大洗でも戦車にもじったいろんなグッズが登場しましたね。



ガルパンで大洗を盛り上げることに大きな役割をはたしていた中心人物のお一人が、とんかつ屋クックファンの御主人です。
ガルパンファンの間では有名な方です。

私の別の知人が水戸の地域情報誌の編集に携わっていて、そのご主人のこともよく知っていたという縁で、一緒に 戦車型とんかつ を食べにいったことがあります。その時に御主人とも話す機会があって、最後には一緒に記念写真も撮らせて頂きました。

その時のお話で特に印象に残ったのが、ご主人自身が皆さんに指示を出す等々のことはしていないんだと。
みんながいろんなアイデアを思いついたり、こんな商品はどうだろうと試作品を次々と自分のところに持ってきてくれるのだと。
持ってきてくれる方には、観光土産とかメニューに戦車やキャラ等々というよくある商品の関係者だけではなく、それぞれの商売とガルパンを結び付けて、思いがけないアイデアをもってくる方々が多いんだと。(その時に例にあげられていたのが 釣り具やさんでした)

自分はそんな皆さんと一緒に飲み会で盛り上がっているだけなんだということでした。


そんなご主人の話をきいていて、職業柄フト思い浮かんだのは、「校長先生」。
子ども達や先生方が主体的に生き生きとしている学校の校長って、こんな感じです。

細かくああしろこうしろと言わない。
それでも各自が身勝手になったり、集団としてバラバラにならない。

それはみなさんが「自分も仲間の一員なんだ」という自覚をもって、その上で「じゃあ自分はどういうことでみんなが楽しい世界になるような貢献ができるだろう」と考える。ここで大切なのは「みんなのため」が、同時に「自分のため」でもあることです。
→もしかすると、そんな「みんな」とか「じぶん」とか分ける気持ちもないかもですね。共に歩む仲間として一体の意識である方々も多いのかもです。


地元の商店主の方々が「俺はアニメのことなんかわかんねー」じゃないんですね。
アニメの世界が分からない、アニメグッズとしてどのようなものがポピュラーなのかも知らない。
だからこそ、自由にアイデアをだし、普通では考えられないような広がりをみせた。


そうした方々が参加しやすい制度上の仕組みなどは先ほどの仕掛け人の方々を中心に整えていったようです。
詳しい裏事情は知りませんが、ちょっと聞いたところによると、「商標」などの縛りをなくしたと。
大洗の商工会に所属していれば、かなり自由な裁量が認められているようです。



就労支援施設でのグループワークでも、参加したくても参加に躊躇している人達の多くは「みんなが話題にしていることに詳しくないから、ついていけないだろう・・・・自分などが何かいったら邪魔になる」という不安を抱いています。
私がいつも強調しているのは「分からない人こそ、皆さんの話をきいて率直に感じた事を話してほしいんです」ということ。

詳しい人達同士って、別の言い方をすると、話の方向性とか観点が固定してしまいがちなんですよね。
そこに新たな風をふかせてくれるのは、新たにやってきてくれた「よく分かっていない」人達。
だからグループワークでは新しい人達が、自分の分からない話題でも積極的に思いを語ってくれるのは大歓迎なんです。


これって、民俗学でいえば 
地元の人達の信仰を長年集めていて、その土地の事情に詳しい「氏神様」

上原先生の師匠である折口信夫先生が説かれた、よそからやってくる来訪神「まれびと」
との協力関係と置き換えられるかもですね。

どちらの神様が大切か ではなく どちらの神様も大切
普段は氏神様。でも定期的に新しい風をふかせてくれるまれびと・・・・
両方あって、その土地が繁栄していくというような。




私がとっても面白いと感じたのが、放送翌年に行われた「あんこう祭り」
もともと毎年行われていた地元のお祭りでしたが、ガルパン要素を積極的にいれていったわけです。
その時に祭りにいった知人がいろんな写真を撮ってきてみせてくれたのですが、いかにも地元のお年寄りが急いで自作したようなガルパン関連の案内板だったり・・・・段ボールにはった紙にマジックでの手書きとか・・・ローカルと言うか素朴と言うか・・・

アンコウや戦車を模したベニヤ板や段ボールで作ったものも、トラクターなどにつけたものも会場を走っていたようです。
アンコウは子ども達をのせて人気だったとか。







この手作り感・・・地元の人達のあたたかい気持ちが伝わってきます。

その後のあんこう祭りでの戦車模型がこれです。(顔にはぼかしをいれています)








どうやら話によると、ガルパンファンでこうした模型製作に慣れた方々が作ってくれたんだとか。
人との大きさを比べると分かりますが、年々本格的になっていますよね。

こうした地元の方々と、全国のガルパンファンの方々との協力関係も大洗の特色だと思います。




明日は、こうしたガルパン聖地に訪れる人達と地元の人達の関係についてです。